走れ桃太郎

桃太郎は激怒した。必ず、かの邪智暴虐の鬼どもを退治せねばならぬと決意した。桃太郎には政治がわからぬ。桃太郎は、桃から生まれた人である。犬を連れ、猿と遊んで、雉と楽しく暮して来た。

海を渡り、島に到着すると、突然、自分は赤鬼だというどう考えても年下の若者が出てきて、桃太郎たちに説教しはじめた。こういうことをしてもらったら困る、ここは鬼ヶ島である、などなど。

もしも赤鬼がもうちょっと頭がよかったら、桃太郎たちのちょっと異様な年齢層やルックスや話し方を見てすぐに、みながそれぞれ人間としてどうなのか、そもそも人間なのかどうかということがわかるはずだ。うまくいく鬼ヶ島は、必ずそういうことがわかる鬼がやっているものだ。

鬼どもは、桃太郎たちにこてんぱんにのされたが、やがて虫の息で、顔をあからめて、こう言った。

「おまえらの望みはったぞ。おまえらは、わしの心に勝ったのだ。信実とは、決して空虚な妄想ではなかった。どうか、わしをも仲間に入れてくれまいか。どうか、わしの願いを聞き入れて、おまえらの仲間の一人にしてほしい」

(あかおにが なかまに なりたそうに こちらをみている! なかまに してあげますか?)

いっしょにいた三十四歳のセリヌンティウスが「まあ、当然といえば当然か」とつぶやいたのが気になった。そうか、この世代はもうそういうことに慣れているんだなあ、と桃太郎は思ったのだ。いいときの日本を知らないんだなあ。